【結論】
養育費の不払いには,差押えで対応します。2026年4月1日施行の改正民法により,養育費には先取特権が認められ,調停調書や公正証書がなくても,取決めを記した書面があれば差押えを申し立てられるようになりました。手順は,①回収の根拠を確認する,②勤務先や口座が分かれば直ちに差し押さえる,③分からなければ財産開示手続と第三者からの情報取得手続で調べる,という流れです。
【まず回収の根拠を確認する】
調停調書・審判書・判決・強制執行認諾文言付きの公正証書があれば,そのまま差押えに進めます。
これらがない場合でも,2026年4月1日以降に発生する養育費については,子の監護の費用に関する定期金債権に一般の先取特権が認められるため(民法306条3号,308条の2),担保権の実行として差押えを申し立てることができます。父母間で作成した取決めの文書が,その証明資料になります。
取決め自体がないまま協議離婚した場合には,法定養育費の制度が利用できます(民法766条の3)。金額は子1人あたり月額2万円とされています。
ただし,先取特権による回収には上限があります。取り決めた養育費については月額8万円に子の数を乗じた額が上限とされているため,これを超える部分や,過去の未払分の一括回収を目指すのであれば,調停を申し立てて債務名義を取得する必要があります。
【差押えの実務】
差押えの対象は,給与債権と預貯金債権が中心です。
給与については,扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合,一部に不履行があれば,確定期限が到来していない将来分についても差押えができます(民事執行法151条の2)。毎月申し立て直す必要はありません。
差押禁止の範囲も緩和されており,通常の債権では手取りの4分の3が差押禁止であるのに対し,養育費等では2分の1までを差し押さえることができます(同法152条3項)。
勤務先を差し押さえれば回収の確実性は高い反面,相手の退職を招くおそれがあります。預貯金は空振りのリスクがある一方,相手に与える圧力は大きくなります。どちらを選ぶかは,相手の就労状況と資力をみて判断します。
【相手の財産が分からないとき】
財産開示手続では,債務者を裁判所に呼び出し,財産の内容を陳述させます(民事執行法196条以下)。債務名義を持つ債権者のほか,一般の先取特権を有する債権者も申し立てることができます(同法197条1項・2項)。
正当な理由なく出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合には,6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という刑事罰の対象となります(同法213条1項5号・6号)。実際に出頭を促す効果があります。
第三者からの情報取得手続では,裁判所を通じて次の情報を取得できます。不動産に関する情報(同法205条),勤務先に関する情報(同法206条),預貯金・上場株式等に関する情報(同法207条)です。このうち勤務先情報は,養育費等の債権者に限って認められている類型です。
不動産と勤務先の情報取得には,過去3年以内に財産開示期日が実施されていることが必要です。預貯金等については,この前置は不要です。順序としては,まず預貯金の情報取得を試み,空振りであれば財産開示から勤務先の特定へ進むのが効率的です。
【ワンストップ執行手続の活用】
2026年4月1日からは,手続の負担を軽くする仕組みが設けられました。養育費等に基づいて財産開示手続または勤務先の情報取得手続を申し立てた場合に,開示された給与債権に対する差押命令の申立てを同時にしたものとみなす取扱いです。
裁判所の案内によれば,手数料は財産開示事件2,000円,差押命令事件4,000円で,同時申立ての場合は計8,000円とされています。勤務先の判明から差押えまでが一つの流れになるため,相手に財産を移す時間を与えにくくなります。
【最後に】
不払いが始まってから動き出すまでの期間が長いほど,相手の転職や口座の移動によって回収は難しくなります。改正によって手続の入口は広がりましたが,上限額や前置の要件があるため,どの手段をどの順で使うかの設計が結果を分けます。
当事務所では,福岡を中心に,養育費の取決めから不払い時の回収まで対応しています。「相手の勤務先が分からない」という段階からでも手立てはありますので,ご相談ください。