コラム

有責配偶者からの離婚請求は認められるか

2026.10.05

【結論】

不貞やDVなど婚姻破綻の原因をつくった配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は,原則として認められません。もっとも,別居が相当の長期間に及んでいるなどの事情があれば認容される余地があります。別居期間の長さだけで機械的に決まるものではなく,未成熟子の有無と,離婚によって相手方が置かれる状況が同時に評価されます。

【判例が示した枠組み】

最高裁大法廷は,有責配偶者からの離婚請求であっても,①夫婦の別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び,②その間に未成熟の子が存在せず,③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等,離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえる特段の事情がない限り,有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない,と判断しました(最大判昭和62年9月2日・民集41巻6号1423頁)。

この事案の別居期間は約36年に及んでいました。判決文の「相当の長期間」は,絶対的な年数ではなく,年齢と同居期間との対比で測る相対的な概念です。

【三つの要素の実務的な読み方】

①別居期間は,同居期間が短く双方が若い夫婦ほど,短くても相当の長期間と評価されやすくなります。逆に,長年連れ添った高齢の夫婦では,より長い別居が求められる傾向にあります。

②未成熟子については,年齢で一律に決まるものではなく,経済的に自立していないかどうかで判断されます。高校・大学に在学中の子がいる場合は,この要件が最大の障害になります。学費や養育費の手当てを具体的に示せるかで,評価が変わり得る場面もあります。

③苛酷状態は,相手方の年齢・健康状態・就労可能性・住居の確保が中心です。ここは給付で解消できる余地があり,財産分与の上積み,解決金,年金分割,自宅の確保といった条件設計が実質的な勝負どころになります。

【そもそも「有責」といえるかを先に争う】

実務では,有責性の有無自体が争点になることが少なくありません。

典型は,別居後に交際が始まった場合です。すでに婚姻関係が破綻した後の交際であれば,破綻の原因をつくったとは評価されず,上記の厳格な枠組みは適用されません。したがって,破綻時期と交際開始時期の先後を丁寧に立証することが先決になります。

また,双方に責められるべき事情がある場合には,一方のみを有責配偶者と位置づけることが相当でないとして,民法770条1項5号の判断の中で相対的に評価されることがあります。この点は事案により結論が分かれるため,断定的な見通しは禁物です。

【請求する側・される側の戦略】

請求する側は,別居の開始時期を客観的に固め,婚姻費用を遅滞なく支払い,子との関係を維持したうえで,離婚条件を相手方の生活再建に足りる水準で提示することが近道です。不誠実な対応は,③の判断に直結します。

請求される側にとって最大の防御手段は婚姻費用です。離婚が成立しない限り請求できるため,交渉上の重みがあります。他方で,争い続ければ別居期間が積み上がり,いずれ認容される可能性が高まるという時間の問題も抱えます。どの時点で離婚条件の交渉に切り替えるかの判断が,結果を大きく左右します。

なお,2026年4月1日施行の改正民法により離婚後の共同親権を選択できるようになりましたが,これは有責配偶者からの離婚請求の可否という枠組み自体を変えるものではありません。もっとも,離婚後の子の養育体制を具体的に示せるかどうかが,未成熟子のいる事案での説得力に影響する可能性はあります。

【最後に】

有責配偶者からの離婚請求は,「何年別居すれば認められるか」という問いに一律の答えがない類型です。年齢,同居期間,子の状況,相手方の生活基盤を並べて初めて,見通しが立ちます。

当事務所では,福岡を中心に,離婚を求める側・拒む側の双方から,有責性の評価と条件設計についてご相談をお受けしています。時間の経過が結論に直結する類型ですので,早い段階でご相談ください。