コラム

相手が財産を隠しているとき──弁護士会照会と調査嘱託

2026.09.23

【結論──手がかりがなければ、制度は動かない】

相手が財産を開示しない場合に使える制度はあります。ただし、弁護士会照会も調査嘱託も、どの金融機関のどの支店かをある程度特定できなければ機能しません。実際の作業は、手元の資料から照会先を絞り込むところから始まります。制度の存在よりも、絞り込みの精度が結果を決めます。

【まず手元の資料から絞り込む】

有効なのは、過去の通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物、源泉徴収票と確定申告書、住宅ローンの返済口座、給与の振込口座、クレジットカードの引落口座です。

特に確定申告書と源泉徴収票は情報量があります。生命保険料控除の記載があれば、解約返戻金のある保険契約の存在が推認できます。小規模企業共済等掛金控除の記載があれば、確定拠出年金や共済の積立が存在します。配当所得の記載があれば証券口座が、不動産所得の記載があれば別の不動産が存在します。同居中に資料の写しを確保できていたかどうかで、別居後の交渉力は大きく変わります。

【弁護士会照会(弁護士法23条の2)】

弁護士会を通じて金融機関等に照会する手続です。現在は多くの金融機関が預貯金の残高や取引履歴に回答していますが、回答を強制する手段があるわけではありません。最高裁平成28年10月18日判決は、照会先が報告を拒絶しても弁護士会に対する不法行為は成立しないとし、最高裁平成30年12月21日判決は、報告義務があることの確認を求める訴えは不適法であると判断しています。

したがって、拒絶された場合に照会だけで押し切ることはできません。回答が得られないことも想定し、次に述べる調査嘱託に進む準備を並行して行うのが実務です。

【調査嘱託(家事事件手続法62条)】

調停や審判が係属した後は、裁判所を通じて調査嘱託を申し立てることができます。裁判所からの嘱託であるため、弁護士会照会よりも回答率は高いのが実情です。もっとも、対象の特定は必要で、支店名まで指定を求められることが通例です。近時は本店への一括照会に応じる金融機関も増えていますが、対応は機関ごとに異なります。

同じ枠組みで、勤務先に対する退職金見込額の照会、保険会社に対する解約返戻金額の照会、証券会社に対する残高の照会が可能です。暗号資産については、国内の取引所への照会が中心となります。申立ての際には、なぜその照会先に財産があると考えるのかを、手元の資料に基づいて具体的に説明できるかが採否を左右します。

【不自然な出金を争点化する】

隠匿が疑われる典型は、別居の直前に多額の出金がある場合です。分与の対象財産は別居時を基準に把握するのが原則ですから、直前の不自然な出金については使途の説明を求め、合理的な説明がなければ、なお存在するものとして扱うべきだと主張します。相手方の生活実態と釣り合わない支出、親族名義の口座への送金、現金化の痕跡を時系列で整理することが有効です。

なお、養育費などの不払いに対しては、債務名義を得た後に民事執行法上の第三者からの情報取得手続を利用できますが、これは財産分与の調査段階では使えません。手続の順序を混同しないよう注意が必要です。

【最後に】

財産の調査は、早く動くほど選択肢が多く残ります。別居前に資料の写しを確保できるかどうかで結果が変わることも珍しくありません。手元の資料だけでは足りないと感じた段階で、当事務所にご相談ください。