【結論──対象になる。問題は評価額と渡し方】
経営者が保有する自社株式も、婚姻中に取得したものであれば財産分与の対象です。争点は、対象になるかどうかではなく、非上場株式をいくらと評価するか、そして株式そのものを渡さずにどう清算するかにあります。経営権を維持したまま離婚するには、この二点の設計が不可欠です。
【対象から外れる株式】
婚姻前から保有していた株式、親から相続または贈与を受けて承継した株式は特有財産であり、原則として対象外です(民法762条1項)。同族会社の事業を承継した二代目・三代目の経営者にとっては、これを資料で示せるかが分かれ目になります。株主名簿、贈与契約書、相続税申告書、増資の払込原資が分かる資料を揃えてください。
注意すべきは、婚姻後の増資で取得した株式や、役員報酬を原資として買い増した株式です。これらは対象に含まれます。保有株式を一括して特有財産だと主張すると、切り分けができていないことが露呈し、かえって主張全体の信用を損ないます。取得の時期と原資ごとに整理して主張するのが実務の作法です。
【会社の財産と個人の財産は別物】
会社名義の不動産や預金は、原則として財産分与の対象ではありません。対象になるのは、あくまで経営者個人が保有する株式という財産です。
もっとも、家計と会社の資金が混同している場合には、役員報酬を意図的に低く抑えて会社に留保している、個人的な支出を会社の経費で処理しているといった事情が、株式の評価や分与額の算定において考慮される余地があります。経営者の側としては、会社の資産が事業の継続に不可欠であることを、資金繰り表や借入の状況といった具体的な資料で示す必要があります。
【非上場株式をどう評価するか】
評価方法には、純資産価額方式、収益還元方式、DCF方式、配当還元方式、類似業種比準方式などがあり、唯一の正解はありません。実務では、会社を支配する株主が保有する株式については会社の純資産や収益力を反映する方式が、少数株主にとどまる株式については配当還元方式が、それぞれ採られやすい傾向があります。
評価が主戦場になる事案では、決算書三期分、法人税申告書の別表、株主名簿、定款、主要資産の含み損益が分かる資料を踏まえ、必要に応じて公認会計士の意見書を提出します。相続税評価額は入口の目安にはなりますが、財産分与において適正な評価額と一致するとは限りません。この違いを踏まえずに交渉に入ると、想定外の金額を前提に議論が進んでしまいます。
【株式そのものは渡さない】
分与として株式を現実に移転すると、元配偶者が株主として議決権を持ち、帳簿の閲覧等を通じて経営に影響を及ぼすことになります。これを避けるため、株式は経営者に残し、相当額の代償金を支払う方法が実務の中心です。
一括払いが難しければ分割払いとし、期限の利益喪失条項と、公正証書による執行受諾文言を組み合わせます。役員報酬から支払う前提であれば、その原資の安定性も説明材料になります。なお、株式に譲渡制限が付されている場合、現実に移転するには会社の承認手続が必要となる点も見落とせません。
【最後に】
経営者の離婚は、家事事件でありながら、会社法と企業価値評価の知識を要する案件です。当事務所は企業法務を主軸としており、会社の実態を踏まえた評価への反論と、経営権を維持したままの解決設計を得意としています。決算書をご用意のうえ、早い段階でご相談ください。