コラム

住宅ローン付き自宅の財産分与──オーバーローンの処理

2026.09.23

【結論──オーバーローンの自宅は「分けない」のが原則】

自宅の時価より住宅ローンの残債が多い、いわゆるオーバーローンの状態であれば、その自宅は財産分与において価値ゼロのものとして扱うのが実務の原則です。マイナス分を他のプラス財産から差し引けるかどうかは見解が分かれますが、差し引かない取扱いが多数です。したがって争点は「いくらで分けるか」ではなく、「誰が住み、誰が返済を続け、名義と保証をどう整理するか」に移ります。

【まず二つの数字を確定する】

出発点は時価と残債です。時価は、固定資産税評価額や購入価格ではなく、複数の不動産業者の査定書によって把握します。金額に大きな幅が出る場合や、相手方が査定書の信用性を争う場合には、不動産鑑定を検討します。残債は、金融機関の残高証明書または返済予定表で確認します。

対象財産の評価は別居時を基準とするのが原則ですが、返済は別居後も進みます。どの時点の残債を用いるかは事案によって差があるため、基準時をどう設定するかを含めて主張を組み立てる必要があります。時価が残債を上回るアンダーローンであれば、その差額が分与の対象となります。

【オーバーローン分を他の財産から引けるか】

見解が分かれる論点です。清算的財産分与は積極財産の清算であるとして、自宅のマイナスを預貯金などの他の財産から控除しない立場が、実務では多数といえます。他方で、夫婦の財産関係は全体として清算すべきであり、婚姻生活のために負った債務である以上は考慮すべきだとする立場もあります。

断定できない以上、実際の交渉では、住宅ローン以外の負債の有無、その債務が家族の生活のために負われたものか、返済を実際に誰が担ってきたか、といった事情を具体的に主張し、裁判所の裁量的な判断に働きかけることになります。

【住み続ける場合の三つの落とし穴】

第一に、名義と債務者の不一致です。夫名義・夫が債務者の自宅に妻子が住み続けるという取決めをしても、金融機関の承諾なく債務者を入れ替えることはできません。借換えができなければ、返済が止まった瞬間に競売のリスクが現実化します。

第二に、連帯保証と連帯債務です。離婚しても保証人の地位は当然には外れません。代替の保証人を立てるか借換えによって整理するほかありませんが、収入要件を満たせず実現できない例が少なくありません。

第三に、ローン契約上の居住要件です。債務者本人が居住しなくなることは契約違反となり、期限の利益を失う可能性があります。金融機関への事前相談を省略すべきではありません。

これらを踏まえ、公正証書で、返済の履行、滞納時の通知義務、将来売却する場合の精算方法まで定めておくことが有効です。

【売却して清算する場合】

アンダーローンであれば、売却代金から残債と諸費用を差し引いた残額を分けるのが最も明快です。オーバーローンでも、不足分を手持ち資金で補填できれば通常の売却が可能です。補填できない場合は、金融機関の同意を得た任意売却を検討することになりますが、信用情報への影響と、売却後に残る債務の弁済方法を含めて交渉する必要があります。残債だけが残る場合、その負担割合を合意書に明記しておかなければ、後日必ず紛争になります。

なお、不動産を渡す側には譲渡所得税が課される場合があります。この点は別のコラムで扱います。

【最後に】

住宅ローン付き自宅の処理は、不動産の評価、金融機関との交渉、税務、公正証書の作成が同時に絡みます。取決めの形を誤ると、離婚後何年も経ってから返済の滞りという形で表面化します。査定書と返済予定表をお手元に、当事務所までご相談ください。