はじめに
前回の続きです。
今回は,売買契約書のうち,債務不履行に基づく損害賠償請求について,解説します。
債務不履行に基づく損害賠償請求の範囲(改正民法416条2項)
改正の内容
現行民法は,特別の事情によって生じた損害(特別損害)を債務不履行に基づく賠償請求に含められるか否かについて,当事者がその事情を「予見し,又は予見することができた」か否かによるとしていました。
改正民法では,当事者がその事情を「予見すべきであった」か否かによるとしています(改正民法416条2項)。
契約書作成の留意点
改正民法は,従来,予見すべきであったかという規範的な評価がされていたのを明確にしたにすぎないので,契約書作成に関して,実務に与える具体的な影響はないといえるでしょう。
債務不履行に基づく損害賠償の帰責事由
改正の内容
現行民法は,履行不能による損害賠償に限って債務者の帰責事由が問題になるかのような規定となっています(民法415条後段)。しかし,判例・通説は,履行不能に限らず債務不履行全般について,債務者に帰責事由がない場合に免責を認めています。
改正民法では,この点を明文化し,また,帰責事由の存否は,契約および社会通念に照らして判断される旨を規定しました(改正民法415条1項ただし書)。
契約書作成の留意点
上記と同様,従前の判例・通説の理解を明文化したものであるので,契約書作成に関して,実務に与える影響は少ないと考えられるでしょう。
損害賠償額の制限(改正民法420条)
改正の内容
現行民法は,契約当事者間で損害賠償額の予定がなされた場合に,裁判所が当該予定額を増減させることができない旨を規定していました。
改正民法では,この規定が削除されました。
契約書作成の留意点
裁判実務上,予定賠償額が現に生じた損害の額等に照らして著しく過大である場合には公序良俗違反等を理由に増額することが従来から異論なく認められてきたところであり,改正民法は,こうした実務上の処理と整合させたにすぎません。
したがって,契約書作成に関して,実務への具体的な影響はありません。
もっとも,現行民法と同様,想定される損害に秘して過大な賠償予定額を合意した場合には,公序良俗違反等の理由で,当該予定額の一部が無効となる可能性があることに留意する必要があります。