コラム

あの問題社員を解雇できる?

2019.09.26

裁判で解雇が無効と判断された場合の対応

問題社員を解雇した場合,労働者から本件解雇が無効であるとして,労働契約法上の地位の確認,賃金請求等を求める労働審判ないし訴訟提起をされる可能性があります。

解雇が無効と判断されてしまうと,当該労働者の労働契約法上の地位が確認されることになります。その結果,職場復帰並びに解雇以降に就労できなかった期間についての賃金関係, 社会保険料関係及び税金関係の対応等が必要となってしまいます。

解雇権濫用法理とは

労働契約法16条により,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されています。

裁判になった場合,当該解雇が解雇権濫用法理により無効であるか否かが主たる争点となります。具体的には,労働者は解雇権濫用の評価根拠事実(解雇権濫用という評価を根拠付ける事実)について主張立証を,使用者は解雇権濫用の評価障害事実(解雇権濫用という評価を妨げる事実)の主張立証を行います。

解雇権濫用の評価障害事実がなく,または認められないと判断されると当該解雇が解雇権濫用法理により無効と判断されてしまいます。

したがって,使用者側としては,問題社員を解雇する際,訴訟提起された場合に備え,解雇権濫用の評価障害事実を主張立証できるようにしておかなければならないのです。

「客観的に合理的な理由を欠」くか否か(第1要件)の判断枠組

第1要件の判断の性質は,客観的ないし類型的な見地からみた解雇事由の有無の判断(就業規則上の解雇事由該当性という客観的・類型的判断)です。

もっとも,裁判実務では,就業規則上の解雇事由に合理的な限定解釈を加えた上,これを将来的予測の原則,最終的手段の原則の検討結果を当てはめる,というパターンを踏んでいます。

職務遂行能力に喪失・低下ないし不足が認められる解雇類型の場合

その程度や性質を検討し,当該病気等が労働義務の履行を期待することができないほどの重大なものであるか否か(将来的予測の原則),当該事案の解雇事由の内容・性質と程度に応じた解雇回避措置があるか否か(最終的手段の原則)を検討し,それが認められた場合に,当該解雇事由に該当すると判断されます。

労働契約上の義務違反が認められる解雇類型の場合

義務違反の程度や反復継続性を検討した上,当該労働者に改善・是正の余地がなく,労働契約の継続が困難な状態に達しているか否か(将来的予測の原則),当該事案の解雇事由の内容・性質と程度に応じた解雇回避措置があるか否か(最終的手段の原則)を検討し,それが認められた場合に,当該解雇事由に該当すると判断されます。

なお,最終的手段の原則については,労働者の能力・適正,職務内容,企業規模その他の事情を勘案して,使用者に当該解雇回避措置を期待することが客観的に困難な場合には例外を認める余地があります(東京地決昭和58年12月14日労判426号44頁・リオ・テイント・ジンク(ジャパン)事件)。

解雇が社会通念上相当か否か(第2要件)の判断枠組

第2要件の判断の性質は,解雇に「客観的に合理的な理由」が認められることを前提に,当該解雇の個別事情を踏まえた解雇の社会的相当性を問題とする判断です。具体的には,本人の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等,解雇手続などの適正さを総合勘案した個別的・具体的判断です。

解雇が過酷に失すると認められる場合には,当該解雇は社会的相当性を欠き,解雇権の濫用として無効となります。

使用者側としての対応

このように,問題社員を解雇するのは,上記解雇権濫用法理により解雇が無効とならないようにしなければなりません。

就業規則に,解雇事由が記載されていること,解雇の正当性の有無を確認できる環境を作ることなどして,問題社員の解雇には慎重な対応をしましょう。