コラム

退職金と財産分与

2022.06.08

【退職金は財産分与の対象になる?】

 退職金は、長年勤務を続けてきた労働者が退職をする際に、勤務先の退職金支給規定に従って支払われるものです。

 支給方法として、通常は、労働者が退職時に一括して受け取る一時払いによりますが、将来の年金で受け取る方法もあります。

 

 では、退職金は財産分与の対象になるのでしょうか?

 

 結論として、退職金は、財産分与の対象となりえます。

 退職金は、給与の後払い的な性質をもつとするのが通説的見解であるため、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産とみることができるからです。ただし、財産分与の対象とされる退職金は、婚姻から別居までの期間(同居期間)のみとなります。

 

【将来支給される退職金について】

 退職金の支払日が将来の場合でも、財産分与の対象となるか否かについては、「将来、退職金の支給の蓋然性が高い(確実に支給される)」場合に、財産分与の対象となります。

 

 どのような場合に蓋然性が高いかは、勤務先の性質、支給根拠の有無等から判断され、就業規則(賃金規程)等に支給の規定があれば、原則として、対象となります。 

 

 ただし、支給自体の不確実性(会社の倒産や労働者側の懲戒解雇などによる不支給の可能性)や支給額の未確定性(将来の昇給などにより支給額が変動すること、定年前退職や労働者の死亡などにより支給時期も不確定であることなど)をどのように考慮して退職金の評価算入を行うかは、具体的事案に応じて異なります。

【将来支給される退職金の分与・算定方法】

では、将来支給される退職金の分与方式、算定方法をそれぞれ紹介します。

 

①将来給付方式(将来の退職金支給時を支払い時期とする方法)

 将来、退職金の支給を受けたときに、そのうちの一定額を支払うよう取り決めをしておく方法です。

 定年退職時期が近い場合は、この方法でも問題ないと思われますが、そうでない場合は、よほど資力がない場合は別として、この方法は避けられる傾向にあります。

 なお、退職金の算定については、将来の退職金見込額を基準として分与を決定した例もありますが、最近は、離婚時又は別居時に退職したと仮定して算定する方法が若干多くみられます。

 

  

②現在給付方式(離婚時に即時分与を認める方法)

 分与者に資力がない場合は、大変苦しいものとなりますが、紛争の早期解決につながるメリットがあります。

 分与額を決める計算式には、以下のものがあります。

 

 ⅰ 勤続年数によって退職金の算定の率が変わる場合

 

    分与額=別居時に自己都合退職したと仮定した場合の退職金

        婚姻時までに蓄積された額(婚姻時に退職したと仮定した場合の退職金)

 

 

 ⅱ 勤続年数によって退職金の算定の率が変わらない場合

 

  分与額=別居時に自己都合退職をしたら取得したであろう退職金×同居期間÷在職期間×寄与度

 

   別居時に、自己都合退職をしたと仮定して別居時における退職金見込額を基準とする方式です。

   実務では、この計算式で分与額を決める方法が最も多い傾向にあります。

 

 

     ⅲ 将来の退職時点の額しか判明しない場合

 

  分与額=定年退職金×同居期間÷在職期間×寄与度×退職までのライプニッツ係数 

 

   退職時における退職金見込額を基準とする方式です。

   支払時期を即時とする場合、現在の額に引き直すために、実際に支給されるであろう時期までの中間利息を控除することとなります。

   定年退職時期が近い(概ね5年以内)場合は、この方法によることも少なくはありません。

【最後に】

 本コラムでは、退職金は財産分与の対象になるか否かについて説明しました。

 退職金の財産分与は、事案ごとに対応方法が異なるため、弁護士を入れて取り決めをした方が良いかもしれません。

 現在、財産分与についてお悩みの方は弊所までご連絡いただけたらと思います。